B社の創業以来50年間に及ぶ売上高推移の時系列分析と、中期事業計画を評価した予測シミュレーションの事例です。分析を進める中で獲得したインサイト例を参考に記述しています。
図BA-1に創業以来約50年間にわたる売上高推移を示します。ここから以下が読み取れます。
◆一時の低迷を脱して、ここ数年の成長が著しい。
図BA-1 B社売上高推移
図BA-2に実績成長率(対前年度)を示します。ここから以下が読み取れます。
◆成長率でみると大きく3期に分けられる。
【創業期】 成長率≒1.5±0.5、変動幅:大、変動に周期性が見られる
【成長期】 成長率≒1.0±0.4、変動幅:中、同上
【成熟期】 成長率≒1.0±0.2、変動幅:小、変動に周期性は見られない
◆直近の成長が著しいように見えるが、ランダムな成長率変動幅の中と考えるのが妥当ではないか?(インサイト)
◆成長率を一定の幅に保つ、何らかの力が企業にはあるのではないか?(インサイト)
図BA-2 B社実績成長率
図BA-3に成熟期の成長率分布を示します。ここから以下が読み取れます。
◆統計的な解析から、正規分布に近いベル型分布ということがわかります。
◆他社も同じような分布ではないか?(インサイト)
図BA-3 B社実績成長率分布
図BA-4-1にB社売上高時系列のパターン分析の例を、参考として図BA-4-2に株価チャートのパターン分析の例を示します。全く同じ金融テクニカル分析を行ったものです。ここから以下が読み取れます。
◆売上高時系列データには株価チャートに似たパターンが現れる。
◆両方のデータに、時系列というだけではない共通の法則があるのではないか?(インサイト)
図BA-4-1 B社売上高パターン分析
図BA-4-2 <参考>株価パターン分析
図BA-5にパターンの解釈例を示します。ここから以下が読み取れます。
◆株価チャート分析と同様の、低迷と成長の可能性をうかがわせる特徴的なパターンが出現する。
◆将来予測に使えるのではないか?(インサイト)
◆他社の業績予測に使えるのではないか?(インサイト)
図BA-5 B社売上高パターン解釈
売上高時系列分析で得られた特徴値を使って、中期事業計画の妥当性を評価した例を示します。
新社長による積極的な事業運営が功を奏して48期から51期まで好調な業績を示していました。そこで、数年間の平均的な成長率から将来性を展望したところ、1000億円という大台が見えてきましたので、ややチャレンジングという評価はあったものの、1000億円を目指す方針が示されました。赤い棒グラフは平均的な成長率で展望した中期売上高予想値です。
図BA-6 B社中期事業計画
CARPESシミュレーション手法によって、多数(1000回)のシミュレーションを行い、計画の実現可能性を評価することにしました。図BA-7にそのイメージを示します。
図BA-7 シミュレーションイメージ
図BA-8に5年後までのシミュレーション例(100ケース)を示します。中期計画におけるリソース投入があまり積極的でないので、成長率は過去の変動範囲になる可能性が高いと判断し、データ分析で得られた成長率特性値を使ったモデルとしました。ここから以下が読み取れます。
◆年数が長いほど予測値の幅が拡大する(当然ではあるが)。
◆3年後の予測値は、ほぼ600~1000億円の範囲にある。
◆1000億円の可能性もあるが、確率が極めて低そうだ。
◆かなりの確率で現在の売り上げ高を下回る可能性もあることを考慮する必要がある。
図BA-8 シミュレーション例
図BA-9に3年後シミュレーションデータ(100ケース)のランキンググラフを示します。シミュレーションは100ケース/回を10回実施(計1000回)していますが、ほぼ似たようなパターンとなります。ここから実現可能性を評価できます。
図BA-9 シミュレーションデータランキング分析
図BA-10に評価結果を示します。ここから以下が読み取れます。
◆3年後1000億円達成の可能性は極めて低い(インサイト)。
◆現状を下回る可能性は相当高いので要注意である(インサイト)。
図BA-10 シミュレーションデータランキング分析評価
中期計画はチャレンジ目標をより確度の高い(達成確度≒30%)900億円に引き下げられました。実際の推移を図BA-11の赤い太線で示します(そのほかの線はシミュレーションデータ)。2年目に計画達成を期待させる実績が出たものの、東日本大震災の影響もあって、3年後には計画前提である51期実績値に近いレベル(達成確度≒70%)までダウンし、計画は残念ながら未達成に終わりました。
図BA-11 中期の結果
東日本大震災の影響は「想定外」ですが、やはり計画対リソース投入のアンバランス(リソース不足)が未達成の決定的要因と考えられます。